アーカードVSゼン・ランドー

540 名前:導入部 その1 投稿日:01/12/25 00:09
「貴様が、降魔局とやらの特使か」
「貴方がヘルシング機関のトップ、サー・インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲート・ヘルシング氏ですね?
 お初にお目にかかります。私、降魔管理局妖術技官、ヴァージニア・イレブンと申します」

周囲の敵意の視線をまるで感じていないように、魔女は深くお辞儀をした。

「それで?貴様達の目的は何だ、ヴァージニア」
「我々の希望は、貴方達の静観です」
「静観? ハン、どの口でほざく。先に仕掛けてきたのは貴様達だ。忘れたのか、その事を」
「不幸な事故であったと認識しております。御希望でしたら、補償の方もいたしますが……」
「黙れ!」
「黙ります」
「……一つだけ聞く。貴様達は一体なんだ? 魔術に長け、人を集め、化け物を飼い、更には強大な資本。
 貴様達は何だ? 貴様達の目的は何だ? それがわかるまで、解答するワケにはいかん」
「―――――――です」
「……何だと?」

くわえかけていた葉巻をポトリと落しながら、インテグラは呆然と呟いた。
その事に気付くと、苛立たしげにもう一本取りだし、くわえ、火をつけ、息を吐いた。

「やはり、狂信者の類か。貴様達は既に我々に手を出した。無視する訳にはいかんな」
「交渉は決裂、ということですか?」
「言わなければわからないのか?」
「そうですか。非常に残念です。……それでは、先制攻撃を仕掛けさせて頂きます」

そう言うと、魔女は腰に下げていた瓢箪の栓を抜いた。

同時に、アーカードの放った銃弾が魔女の頭を砕いた。

541 名前:導入部 その2 投稿日:01/12/25 00:09
その一瞬が終わった後、室内の人間の表情は様々だった。
主たるインテグラはあくまで泰然としていた。
銃弾を放ったアーカードはいかにも失望した、という表情を浮かべていた。
執事たるウォルターは、魔女の体液で汚されたカーペットの替えの算段をしていた。
元婦警のセラスは、
「や、やっぱり、いきなり殺しちゃうのはまずいんじゃないでしょーか?」
という意見を発言すべきかどうか悩んでいた。
恐らくただ一人の普通人であるインテグラの秘書官は、目の前で起きた殺人(?)に呆然としていた。

次の瞬間、瓢箪から零れ落ちた『影』がインテグラに襲いかかった。

虚をついたその攻撃からインテグラを救ったのは、最も彼女の近くにいた秘書官の捨て身の体当たりだった。
倒れたインテグラを素早く助け起こして飛び退ったウォルターは、その影に貫かれた秘書官の体が痙攣しているのを見た。

やがて、助けを求めるような光を帯びていた秘書官の目が「変わった」。
同時に、痙攣の種類も変わる。それは、本人の狂喜の現れであった。

「捕われの身で世を呪い続けた甲斐があったというものよ。
 最初に滅ぼすのが、我が敵国たるえげれすの首都とは。
 降魔局の奴腹めも、気の効いた事をする」

言葉を紡ぐ内に、影がその身を包んでいく。
体の内側から滲み出してくる影で依り代を覆い終え、姿を変えた魔人は、旧日本帝国の軍服を着ていた。
その首筋からは、異様な器械が見え隠れしている。

唇を吊り上げて嫌な笑みを浮かべると、魔人は呪詛を吐いた。
「呪われよ、鬼畜どもめ」

552 名前:アーカード ◆aaRCARDU 投稿日:01/12/25 00:30
>541 VSゼン・ランドー

 秘書官が既に人間でないことはすぐに分かった。
 だが、こんなモノは知識にはない。
 そもそも、降魔局などというモノが初耳ではあったが。

 「呪われよ、鬼畜どもめ」

 その言葉を言い終わるがはやいか、アーカードは頭部にポイントしていた
ジャッカルの引き金を引いている。

 さて、降魔局とやらが用意したこの化物、如何ほどか……?
 私と闘争するに足る奴らなのか? それともタダの誇大妄想狂なのか?

 声に出さず、心の中でそう呟いた。

558 名前:ゼン・ランドー 投稿日:01/12/25 00:38
唸りを上げる銃弾を、何気ない動作であっさりとかわし、魔人は嘲笑った。
「あたらぬな」
低い声で嘲笑を続けると、魔人は宣言した。

「儂はこれから地獄を呼び、この国を滅ぼす」

その言葉には、虚勢は何一つ含まれてはいなかった。

「面倒じゃが、邪魔をするようならば、殺し尽くす」

567 名前:アーカード ◆aaRCARDU 投稿日:01/12/25 00:57
>558 VSゼン・ランドー

「ほう? この距離での弾丸をかわすとはな……。 クックックッ……。
コレは相当に面白いではないか? 降魔局、そしておまえ、期待してよさそうだ」

 「儂はこれから地獄を呼び、この国を滅ぼす」

「面倒じゃが、邪魔をするようならば、殺し尽くす」

 この国を滅ぼす? 地獄を呼んで? 意味は分からないがその言葉には
絶対の自信が伺える。
 その目的は、ヘルシング機関にとって絶対の敵、ならば殲滅するのみ。
 だが、弾丸がかわされたのは果たして偶然か?
 それを、今から確かめる。

 両手の二挺拳銃を構え、唯々引き金を引く。
 逃げ場を防ぐように、あるいは目盲滅法にすら見える程に。
 大量の死がまき散らされた。

572 名前:ゼン・ランドー 投稿日:01/12/25 01:06
>567 VSアーカード

銃弾の嵐。
魔人はその全てを、人外の素早さも、魔法や魔術の類を用いる事もなく
回避してみせた。
ずたずたになった部屋にも関わらず、魔人の軍服にすら掠り傷は無い。

そして、弾装の中の弾が尽きた。

「下らぬことをする。長生きしたいとは思ってないようじゃな」

魔人はそういうと、悠然とアーカードに向って歩き始めた。

575 名前:アーカード ◆aaRCARDU 投稿日:01/12/25 01:18
>572 VSゼン・ランドー

 とりあえず、銃弾をかわす何らかの能力を持っていることは間違いない。
 ソレを確認しただけでも全弾倉を使い切った価値はあるだろう。

 目の前の男を、こちらのことを銃だけがとりえだと思ってる男を捕らえる。
 そのために両手の銃を放り捨て、格闘戦を仕掛けることにした。

「もう充分に長生きした。だが、今終わるつもりもないね」

 そう言って、頭部めがけて拳を振るう。

577 名前:ゼン・ランドー 投稿日:01/12/25 01:27
>575 vsアーカード

魔人の首筋に仕掛けられた電朴易断器が低音の唸りをあげる。
陰陽術と科学の融合、その一種の到達点でもある器械は、
一秒先までの未来をほぼ完全に『予見』する力を持つ。

そして、その器械を扱う魔人にとって、銃撃戦が格闘戦に変わろうが
何も意味は無かった。

「お主、阿呆じゃろう」
拳を回避すると同時にアーカードの懐に潜りこみ、手刀を体の中央に埋め込む。

一拍置いて、ぬぷりと手刀を抜き、言った。

「拳と銃弾、どちらが早いのかも知らんのか?」

581 名前:アーカード ◆aaRCARDU 投稿日:01/12/25 01:46
>577 VSゼン・ランドー

 手刀で体の中央を貫かれ、片膝を付く。
 ダメージはそれほど深刻ではない。
 だが、相手の正体が掴みきれないままでは打つ手がない。

 こちらが仕掛けた瞬間、首筋に見える何らかの機械が唸りを上げていた
ことには気付いた。
 更に今の言葉から引き出された情報……相手の能力はスピードに依存する。
 ……簡易的な予知?
 いかんせん乱暴な結論だが、他に推測しえる情報もない。ならば……。

 アーカードは、突然相手に背を向け、先程放り投げた銃を回収しに向かう。
 もちろん、そんなところを見逃す男ではない。

「本当に阿呆か? 敵前で背を……」「拘束制御術式(クロムウェル)、三号二号一号、解放」

 アーカードに詰め寄り、心臓をえぐり取ろうと手を伸ばした男の目の前で、その背中が
巨大な犬の口と化した。

584 名前:ゼン・ランドー 投稿日:01/12/25 01:56
>581 VS アーカード

犬に腕を噛み千切られる寸前に飛び退き、ブツブツと呟く。
「やはり人では無かったか。だが、どのような類の魔物かは知らぬが、魔物には違いあるまい」
襲われながら呑気に首を捻る。
その首の後ろにある電朴易断器は、その機能を全開にしている最中だ。
余裕が見た目ほどあるわけではない。魔人は自らの限界を悟っている。

彼は一秒先の未来を予見する。
それ故に、彼には絶対に避けられない攻撃もまた見えていた。

「人を食らう我が同胞よ。何故に人に従う?」
特に答えを期待しての問いで無い事は明らかだった。
結局、口の中で呟いたに過ぎない。

直後、魔犬に弾き飛ばされ、魔人は窓から転落した。

588 名前:アーカード ◆aaRCARDU 投稿日:01/12/25 02:22
>584 VSゼン・ランドー

 まずは銃を拾い、すぐに装弾を完了。
 すぐに窓の外に目を向ける。

「知れたこと、人間が面白いからだ」

 窓の向こうに聞こえるわけのない声でそう呟くと、コウモリと化し、
窓の外の敵を追いかけた。

590 名前:ゼン・ランドー 投稿日:01/12/25 02:53
>588 VSアーカード

軍服についた土を払い落とし、空を見上げた。
ちょうど、蝙蝠が窓から飛び出てくるところだった。

静かにそれを見つめ、魔人は決めた。
彼にとってここで一旦逃走するのは、別に困難では無い。
地脈を通って遠隔移動する彼を追う事は、ほぼ不可能に近いからだ。

だが、彼は自らそれを否定した。

魔物が人と共にいる?人を擁護する?
つまりは彼奴めもこの呪詛の対象か。

ならば邪魔にならない内に、面倒が起きない内に、ここで殺す。

「人間の狗め。自らの愚かさを知れ」

静かだった魔人の心の内は、再び憎悪に満ちた。

595 名前:アーカード ◆aaRCARDU 投稿日:01/12/25 03:22
>590 VSゼン・ランドー

 コウモリが、眼下の男を認めながら空中をけたたましく飛び回っている。
 こちらを見上げる男の、その奇怪な表情からは憎悪がありありと見て取れる。

 一体、この男は何に対して憎悪しているのか?
 おそらくは、人間。
 そして、それに仕えるこの私。
 何が男をそうさせるのかは知らない。
 明確なのは唯一つ、男が敵だと言うことのみ。

 コウモリの塊が二つに別れた。
 それぞれが、男を挟み撃ちするような場所に集まり、更にはその姿を犬に変える。
 犬達が、男に向かって疾走を始めた。

597 名前:ゼン・ランドー 投稿日:01/12/25 03:31
>595 VSアーカード

地上に降りた蝙蝠が犬に変化をした。
だが、魔人には驚きは無い。表情に浮かべているのは侮蔑。
電朴易断器を起動させ、即座に犬の軌跡を予見する。

「ぬしの手品は一つだけか? 少々飽いてきたぞ」

そう言うと前から迫る魔犬を避けて頭に右手で手刀を埋め込み、
同時に頭を噛み千切ろうと背後から飛びかかった魔犬の首を掴み、締め上げた。

「人に使われる狗には相応しいかもしれんな」

598 名前:アーカード ◆aaRCARDU 投稿日:01/12/25 03:39
>597 VSゼン・ランドー

 手刀を埋め込まれた犬の口からジャッカルが。
 首を締め上げられた犬の口から454カスール改造銃が。

 至近距離で火を噴いた。

599 名前:ゼン・ランドー 投稿日:01/12/25 03:50
>598
ジャッカルの弾も、改造銃の弾も、予見の力でギリギリに回避する。
だが……その衝撃波だけで側頭部と脇腹から血を流していた。
僅かの間、また影が滲みでて、傷口を覆う。

「やってくれたな……おしおき、じゃ」

そういうと、、魔人は首を締め上げていた狗をつるりと飲みこんだ。
明らかに口に入るサイズではないにも関わらず、だ。
「不味いの。やはり、ゲテモノは胃にもたれるわ」

ぷ、と銃を吐き出すと、残された魔犬に向けて言い放つ。

「確か……くろむうぇる、とか言うたな?お主の体を縛る呪法の名は」
そして、圧倒的な呪力をこめた『声』がアーカードを襲った。
「『くろむうぇる、うぬが主の体を縛れ』」

604 名前:アーカード ◆aaRCARDU 投稿日:01/12/25 04:27
>599 VSゼン・ランドー

「『くろむうぇる、うぬが主の体を縛れ』」

 男が言葉を発した瞬間、全ての闇が凝集し、ただアーカードが立っていた。

「何……? クロムウェル制御を私以外の者が操るだと?」

 一体、この男はどのような魔術的手段を用いたというのだ?
 もはや、操るなどというレベルではない。
 今や、クロムウェルはアーカード自身すら拘束していた。
 動くことすら簡単でなくなっている。

(婦警!)


 ――その頃、ヘルシング機関内、先程までの部屋の中


 婦警とインテグラは窓からその一部始終を見ていた。
 何故か動かなくなったアーカードを見て、インテグラがギリッと歯ぎしりをする。
 婦警も気が気でない顔だ、とその時。

(婦警!)

 婦警の頭の中にアーカードの念話が飛び込んできた。
 突然びくっとした婦警に隣のインテグラがいぶかしげな表情を向ける。

「どうした、婦警?」
「いっ、今マスターからの念話が……」
「……分かった、続けろ」
「はっはっ、はい!」
(はい、何ですかマスター?)
(ぼっとするな、私は今動けん。そこからその男を撃て)
(うっ、動けない!? 何でそんなことになってるんですかぁ!?)
(知るか、説明しても分からんだろう? ゴチャゴチャ言わずにやれ)
(了、了解(ヤー)!)

 何が何だか分からないが、放っておくワケにもいかない。
 とにかく眼下の男に向けてやたらと13.7ミリ弾を連射した。
 そこに、更に念話が届く。

(それと、そこに転がってる女の死体をインテグラとウォルターに調べさせろ)

 婦警は、隣のインテグラにその旨を伝えた。

605 名前:ゼン・ランドー 投稿日:01/12/25 04:35
>604 VSアーカード

「ぬ!」

頭上から撃ち出される銃弾の雨。
それを回避する為には、即止めをさすつもりであった僵尸(きゅうけつき)
から離れなければならなかった。

「儂の邪魔をするとはな。あやつらも、命はいらぬと見える」

そういうと、滑る様に歩いて自分の落ちてきた窓にジグザグに近付く。
無論、銃弾は一発たりともかすらない。

「ぬしはそこでへたれておれ。すぐ止めを刺しに戻ってやるでな」

嘲笑を浮かべると、窓を見上げた。

606 名前:アーカード ◆aaRCARDU 投稿日:01/12/25 04:56
>605 VSゼン・ランドー

「うわっ、あいつこっちに向かってきてますよ!?」

 銃を打つ手は緩めずに、後ろのインテグラとウォルターに声を掛ける。
 インテグラは、あの男が飛び出してきたひょうたんを手にしながら、

「何とか足止めしろ、婦警。まだ調べてる途中だ」
「さて、このひょうたんは……何やらあやつの鍵を握っていそうですな?」
「ひょうたんか。ひょうたんといえば西遊記に何かあったような気がするが」
「確か、金角銀角でしたかな?」

 そこで、婦警の引き金を引く音がガチンガチンと響き渡る。

「あわわ……弾切れっ!?」
「婦警殿、そちらにハルコンネンを用意してございます。お使い下さい」
「あっ、ウォルターさんありがとう……ってどうやって窓の外に撃つんですかぁ!?」
「吸血鬼である婦警殿ならば、ソレを担ぐくらいは可能ではないかと存じますが」
「はっ、はぁ……やってみまス……」

 両手を使い、何とか肩の上に担ぎ、銃口を窓枠に設置する。
 男が窓の前に現れた瞬間を狙って、ハルコンネンの引き金を引く。

 ……男は難なく劣化ウラン弾をかわし、ハルコンネンの上に立った。

「覚悟はよいか? お主らを片付けた後に、じっくりえげれすを地獄へと変えてくれるわ」
「……冥土の土産に聞かせろ」

 そう言ったのは後ろにいるインテグラだ。

「我らに、ヘルシング機関に、何より英国に、女王(クイーン)に弓引く貴様の名前は何だ?」

607 名前:ゼン・ランドー 投稿日:01/12/25 05:07
>606 VSアーカード

「くくくくく。また古風な話ではあるな。だが、まあ、よかろう。儂も嫌いではない」

魔人はくつくつと、初めて嘲笑でない笑みを浮かべた。
僅かに胸を張り、高らかに、誇らしげに宣告する。

「大日本帝国陸軍陰陽将校、ゼン・ランドー。貴様らを滅ぼす為に人を捨てたものよ」

にんまりと笑うと、不可視の力をまとった右手を掲げ、ランドーは言った。

「気はすんだな?では、さらばじゃ。まとめて去ね」

608 名前:アーカード ◆aaRCARDU 投稿日:01/12/25 05:13
>607 VSゼン・ランドー

「そうか……ゼン・ランドー」
「ぬう?」

 呼びかけに答え顔を向けた先には、ひょうたんの口をゼン・ランドーに
向けたインテグラが立っていた。左手にはひょうたんの蓋を持っている。
 コレは賭けだ、もしコレが外れならば打つ手はない。
 だが、インテグラには奇妙な確信めいたモノがあった。
 神に、女王に仕える我らがこんなところで終わるわけにはいかないのだ。

609 名前:ゼン・ランドー 投稿日:01/12/25 05:23
>608 VSアーカード

「ぬう?」
女の行動が全く意味の無いように思えたランドーは、一瞬混乱した。
何故儂の名を呼ぶ?何の意味がある?いや、そもそも一体何を持っている?
混乱のせいで右腕を振り下ろすのが一拍遅れたランドーは、次の瞬間、
その行動の理由を正しく理解した。

依り代から無理矢理引き剥がされる事によって。

声ならぬ悲鳴をあげながら必死に抵抗するが、彼の特性を知る仙人の
作り上げた宝貝は、その抵抗をものともしなかった。

「き、貴様らごときに、また捕われるのか!?おのれぇえ!……・」

すぽん、という間の抜けた音を立てて、影はひょうたんへと吸いこまれた。
素早く栓をしめたインテグラは、中から聞こえる怨嗟の声を確かに聞いた。

610 名前:アーカード ◆aaRCARDU 投稿日:01/12/25 06:04
>609 VSゼン・ランドー エピローグ

 突如、自分を縛っていた拘束制御術式が正常に戻るのを知覚した。
 どうやら、終わったらしい。
 だが、どうやって?

(婦警、奴はどうなった?)
(あっ、マスター、大丈夫ですか?)
(あぁ、それはいい。奴はどうなったと聞いている)
(はい、え〜っと、ひょうたんに吸い込まれました、はい)

 瞬間、アーカードの呆けた意識が婦警の脳裏に飛び込んできた。

(あっ、あのマスター?)

 返事はない、代わりに下から笑い声が聞こえてくる。

「ひょうたんだと? ククク……正面から戦った私が馬鹿みたいだな、コレでは。
……ハッハッハッハッハッハッハッハッ!」

 しばらく、笑い声は止まなかった。


 ――数日後、インテグラの執務室


「ひょうたんの方は、地下の魔導研究室に厳重に封印いたしました」

 そこには、机に向かうインテグラと、報告をするウォルターだけがいた。

「それと、依代とされていた秘書官ですが……」
「どうなった?」
「はい、現在意識不明。ですが、命に別状はないとのことです」
「……分かった、報告御苦労。下がっていいぞ」

 とにかくにも、降魔局が英国に対して挑戦してきたことだけは事実だ。
 魔術に長け、人を集め、化け物を飼い、更には強大な資本。
 ……ギリッと、歯ぎしりを一つ。

「知ったことか。奴らが我らと敵対するというのなら、その存在を排除するのみ」

 握り拳に更なる力を込め、唯一人呟くインテグラ。
 此処にはアーカードはいない。
 だが、彼なら既に命令を理解しているはず。

 降魔局は敵だ。ならば見敵必殺。(サーチアンドデストロイ)

611 名前:アーカード ◆aaRCARDU 投稿日:01/12/25 06:04



 ――同、地下室


 アーカードは、自室でひたすら血をあおっていた。
 闘争の予感に打ち震えて、渇きを癒す血液が更なる渇きを呼ぶ程に。
 アレ程の敵が、まだこの世界には存在している。
 ミレニアムに、あの戦争狂たる少佐が率いる最後の大隊に勝るとも劣らないほどの敵が。
 これほど嬉しいことはない。
 手元にある輸血血液パックを全て飲み干した後、そのまま椅子の上で目を閉じる。

「踊れ化物共、この私をもっともっと愉しませろ。ミレニアムも、降魔局も私が滅ぼしてやろう」

 そう呟き、眠りへと落ちていった。


TO BE CONTINUED