『不死の王』VS『魔女』
13 名前:『魔女』投稿日:02/02/28 23:03
『魔女』と『不死の王』 〜導入〜
暗い地下の一室、その中央に玉座の如く置かれた椅子にだらしなく座り、彼は物音一つも
立てずに眠っている。
床一面に堆く散らばるのは一滴も残さずに吸い尽くされた医療用血液のパック、全く大した
健啖ぶりである。
私は部屋の陰からするりと踏み出し、着物の襟を僅かに正し、その部屋の主に声をかけた。
声はつとめて明るく、顔には笑顔を浮かべて。
「こんばんわ。ちょっとだけ付き合って戴けるかしら?」
部屋の主は面倒臭そうに顔を上げてこちらを見ている。彼には今の私はどんな風に映り、
どんな反応を返してくれるのだろうか?
15 名前:『不死の王』投稿日:02/02/28 23:22
>13 『魔女』と『不死の王』
――誰だろう、この女は?
『不死の王』は、胡乱な頭を振り絞って現状を認識しようと試みた。
だが、靄の掛かったかのような思考は、明快な答えを弾き出そうとしない。
これは、夢?
否、『不死の王』が夢など見るモノか?
否、確かに見た事はあるはずだ。
否、そんな事はどうでもいい。
思考が、まとまらない。
出来たのは、間抜けのような短い問い掛けのみ。
「おまえは、何だ?」
17 名前:『魔女』投稿日:02/02/28 23:42
>15 『魔女』と『不死の王』
彼が問う、私は誰か? それはとてもつまらない返答。
一歩、まだ椅子の上で呆然としている彼との間を詰める。
「魔女、とでも答えれば満足かしら?」
また一歩、袖の中で手を動かす。するりと扇子を取り出し、手に持つ。
「知っているかしら?」
更に一歩、彼の腕がとても大きな銃を持ち跳ね上がる。正確に私の眉間に合わせられた
銃口は微動たりともしない。しかし気にも留めない。それではどうすることも出来ないのだから。
「魔女はヒトではない、それは魔なのよ。そう、貴方が倒すべき」
18 名前:『不死の王』投稿日:02/02/28 23:56
>17 『魔女』と『不死の王』
どうやら、撃てと言っているらしい。
未だに明瞭にならない思考で、何とか言葉の意味を拾う。
魔女……魔?
夜族(ミディアン)?
化物(フリーク)?
いつの間にか、引き金を引いていたようだ。
撃ったという自覚もないままに銃声がいくつも響く。
何か、面白くない。
何故そう思うのかは分からなかった。
20 名前:『魔女』投稿日:02/03/01 00:16
>18 『魔女』と『不死の王』
そのまま真正面から額に押し当てられた銃口が一度跳ね上がる。そして続いて
何度も何度も何度も何度も銃声が響く。きっと彼は私の頭が欠片も残さず吹き飛ばされた様を
見たことだろう。
――しかし、実際には何も起こらない。銃撃の残響は残り、銃口からは硝煙が立ち上るが
私は何の変化もなくそのまま。何が起こったのかも理解らないといった表情を浮かべる彼に
更に近付く。
「それで終わりかしら?」
手にした扇子を口元に添える。
「もう少し面白いと思ったんだけど、貴方は」
手を伸ばせば彼の顔に触れられる、そんなに近い。
24 名前:『不死の王』投稿日:02/03/01 00:37
>20 『魔女』と『不死の王』
ギリッ……。
我知らず、歯ぎしりをしている。
何だ、何のつもりだ?
幻覚でも見ているのか?
それとも、やはりコレは夢?
半ば、衝動的に心臓目掛けて腕を突き出す。
間違いなく、このままなら鮮血をまき散らして心臓を握りつぶせる、そのはずだ。
26 名前:『魔女』投稿日:02/03/01 00:59
>24 『魔女』と『不死の王』
理解不能の事象に対して、歯軋りをした彼の浮かべるその何とも言えない表情は悪くない。
でも、まだ足りない。それに私が見たいのはこれでもない。
彼の腕が大きく引く、そして私の胸めがけて突き出されて狙いを違えず心臓へと。
ぱちん、と僅かに開いた扇子を胸の前で閉じる。僅かそれだけで彼の腕が勢いを失う。
「――いや違うんだ。君に求めているのは」
閉じた扇子を懐に仕舞い、止まった腕を静かに払う。
今、彼はどんな事を考えているのか。驚愕? 絶望? それとも…?
28 名前:『不死の王』投稿日:02/03/01 01:28
>26 『魔女』と『不死の王』
何が違う?
いや、そんな事はどうでもいい。
魔女は……殺せ!
「拘束制御術式、三号二号一号……解放」
30 名前:『魔女』投稿日:02/03/01 01:51
>28 『魔女』と『不死の王』
『拘束制御術式、三号二号一号……解放』
「――それは駄目、ここでやるとみんな台無しになっちまうじゃないか」
彼の胸の真ん中を人差し指でちょん、と押す。そして僅かにそれだけで、全身を震わせて無数の
何かに化けようとしていた身体が波紋でも広がるように静まる。
怒りの表情のままこちらを睨んで、しかし指一本も動かせない彼の胸に私はそっと身体を寄り添わせる。
「あたしが見たいのはね…」
更に全ての指をそのままゆっくり彼の胸に押し当て、両の手を重ねる。顔を上に向け、
背伸びをするように足を延ばし、静かに目を閉じ、まるで少女がそうするように唇を重ねる。
「意外な貴方なのよ」
32 名前:『不死の王』投稿日:02/03/01 02:42
>30 『魔女』と『不死の王』
気が付くと、そこは55年前、ナチスの総統を喰らい尽くした瞬間。
骨の砕ける音、あふれ出す血の匂い。
気が付くと、そこは自室。
鏡合わせの自分と拳を交錯させた瞬間。
思えば、この時一体何が起きたのか?
気が付くと、そこは何処かの洞窟の中。
……何だ、この記憶は?
覚えにないその光景。
だが、そこで『不死の王』は人間に敗れている。
気が付くと、そこはヘルシング機関。
職員に取り憑いた陰男が、『不死の王』のクロムウェルを掌握してみせた。
最後はあまりのあっけなさに笑いが止まらなかったモノだ。
それらが、見覚えのある光景が、見覚えのない光景までもがぐるぐると、ぐるぐると回り続ける。
……何だ、これは?
それは、『不死の王』の記憶。
闘争の、殺戮の足跡。
だが、何故このようなモノを?
……分からない、分かるはずなどない。
全ては、『魔女』の手の内か。
126 名前:『魔女』投稿日:02/03/01 22:14
>32 『魔女』と『不死の王』
闘争、そして闘争、またも闘争。どの光景も声や音を伴わず、さながら無声映画のよう。
絶望的な表情で銃を乱射する少年の前で、首を自ら引き千切り少女の柔らかな首筋に牙を立てる。
全身を銀の鎧に包まれた偉丈夫を襤褸屑のように撃ち砕き、鮮血が飛び散る。磔にされた像が流す朱い涙。
腹から無数の触手を伸ばす異形の侍を犬共が貪り喰らう。全てが終わったその場で、全身を震わせて嗤う。
これは無限の闘争の回廊、とでも呼ぶべきだろうか。そんな光景が絶え間なく繰り広げられる
中を私は美術館の展覧会でも眺めるような気軽な足取りで歩く。
当たり前のこと、彼にとって闘争は空気を吸うことと同意義なのだから。日常同然の風景では
何の関心も感動も伴わない。それらを流すように眺めながら尚も先へ。
そして気が付けば其処は薄暗闇の平原。コートを着た初老の男が、虚ろな眼をした
彼の胸に白木の杭を突き立て、力無く倒れた身体を掴み叫んでいる。彼の表情は
――それはとてもとても哀れ。初老の男の口を真似て私も呟く。
「哀れな”不死の王(ノーライフキング)”よ、おまえにはもう何もない」
その言葉を待っていたかのように、辺りの風景が色褪せ、何もかもがまるで最初から無かった
かのように消え失せる。
初めから何事も起こらなかったかのように間を置いて立つ2人。
「あたしをどうにかしたくてたまんないって顔ね。好きにすればいいわよ」
くるりと袖をはためかせて振り返り、背を向け笑いながら伝える。折角付き合ってくれたのだし、
これぐらいの礼はしてやるべきだろう。
132 名前:アーカード ◆ARCARDr. 投稿日:02/03/01 23:26
>126 『魔女』と『不死の王』
ダンッ。
アーカードが床を蹴って、魔女の肩を掴む。
力ずくで振り向かせて、口に手を掛けたまま壁まで走って叩きつけた。
骨が何本か折れる音がしたが、そんな事は気にも掛けない。
――これ以上、何も喋るな!! その目を私に向けるな!!
ゴリッと音をさせながら、眉間にジャッカルを突き付ける。
何も考えず、ただひたすらに引き金を引き続けた。
最初の一発で、頭部が完全に吹き飛び、返り血が顔を斑に染める。
後の銃弾は、血と脳漿まみれの壁に穴を開けるだけ。
だが、それでも引き金を引く指は止まらない。
思考が、殺意と恐怖がない交ぜになった何かに塗りつぶされていた。
気付けば、撃鉄が空しく金属音をさせている。
一体、何分、何十分、何時間、いや何日そうしていたのかよく覚えていない。
手を、死体の口から離す。
死体は、間違いなく死んでいて、そのまま床にくずおれた。
誰かが、荒い息をしている。
アーカードは、それが自分の息づかいである事にしばらく気が付かなかった。
136 名前:ワルプルギスのご老体 ◆ExwiTCH2 投稿日:02/03/02 00:33
>132 『魔女』と『不死の王』 - エピローグ -
倫敦の一角、石畳の路地を車が走る。窓の外はそろそろ夜が明けて東の空が白んできた
ところだ。車の中では脱色した髪と、同じ色の髭をたくわえた眼鏡の男がハンドルを握り、
黒髪の女性が隣で助手席を倒して眠っている。女性の眼鏡に微かに荒い息で蹲る男が映ったように
見えたが、すぐに消えた。
「――ん」
『”起き”ましたか。ハンドル、持ちますか?』
隣でハンドルを握る男が僅かにこちらを見る。移し身に大半を肩代わりさせたとはいえ、
少々アレは堪えた。当分は何も考えたくないし身体を動かすのも勘弁したい。
「いやいい、もう少し頼む」
寝ている間にずれた眼鏡を軽く直し、上着のポケットから細いシガレットケースを取り出して火をつけて一服。
その時、唇に指が触れた。
ぞくり、と身体の芯に針を刺したような快感が蘇る。吸血鬼の接吻はそれ自体が並の人間ならば
即座に狂ってしまう程の快楽をもたらす。ましてやそれが不死者の王たるアーカードならば快楽の度合いは
他の比ではない。触れている時間がもっと長ければ生け贄にされた移し身を通した私にも
その影響は出ていたことだろう。
それを十分に味わえなかったのは――
「…少し、勿体なかったかな」
怪訝な表情を浮かべる隣の男に何でもないと軽く手を振ると、私は再度座席に深く座り目を閉じた。
面白い見せ物、それだけで十二分に満足出来たのは確かなことだし、それに次はこうも上手くは行くまい。
<完>