エンハウンスVSダンテ

12 名前:トニー・レッドグレイブ ◆JvmjyDANTE 投稿日:02/10/22 11:20
ダンテvsエンハウンス


 花は、結局白い野薔薇を選んだ。

 別に理由があったわけじゃない。
 道の花屋で、一番高くて、一番量がある花だった。それだけだ。
 白はいい。他の色は駄目だ。
 最後ばかり思い出してしまう。

 海が見える、きれいな共同墓地の片隅に、その十字架は建っている。できるだけいいものをと
願ったから、結局金が足りなくて、墓碑はひとつだけだけど。
 躯も無い、空の棺に、三つの魂が眠っている。

(ジェシカ、婆さん、――――――母さん)

 今は亡き、ひと。
 いまさら涙するほど、感傷的じゃない。そんなものは必要ない。想い出せるのは末期の姿だけ
じゃあない。きちんと胸に仕舞ってある。あの優しさも、笑顔も。
 だから、寂しくても、生きていける。
 白木の十字架を、白い薔薇で埋め尽くす。抱えてきた薔薇を、一本一本、丁寧に。絨緞のよう
に。ひとつひとつ、彼女達の想い出と一緒に。
 薔薇が切れた。足りないよ。ちくしょう。


13 名前:トニー・レッドグレイブ ◆JvmjyDANTE 投稿日:02/10/22 11:21
>12

 水平線の彼方から吹く風が、丘の頂きに立つ樹の、大きい枝ぶりを揺らし、ざわめきを残して
いく。淡く匂う潮風が気持ちいい。
 ここは最高の場所だな。わざわざ大枚はたいて、街からずっと離れたここに墓を建てたのは
正解だった。怒りも、無念も、嘆きも、全部洗い流されるようで――静か、だ。安らかに。ただ、
安らかに。そういられる。きっと。
 嘘だよ。
 憎しみは消えない。決して。燻るだけ。
 知ってるさ。そんなことぐらい。
 でも、それでもオレは、彼女達に笑っていて欲しい。偽善だ。嗤えるだろ? オレも嗤う。


 でもさ。
 今日確信した。ここは最高の場所だよ。


 墓地の、丁度反対側。
 そこにもうひとり、墓に参る男がいる。


14 名前:エンハウンス ◆SqaveNgerQ 投稿日:02/10/22 11:21
>12>13 エンハウンスVSトニー・レッドグレイブ
 
 何処にでもある共同墓地、何処にでもある墓前に『復讐騎』ことエンハウンスは跪いていた。
 まるで、神に対して贖罪を乞うかのように。
 もちろん、そんな事はあり得ない。
 復讐騎は罪も罰も、何もかもを自らの肩に背負っている、それを外の何かに求める事はない。
 
 彼は許してもらうためにそこにいるのではない。
 ただ、何の罪もなく、己の弱さのみが故にこの世を去ることになった両親、そして兄弟姉妹達。
 彼がそこにいるのは、ただ鎮魂を祈るため。
 この手によって無碍に散っていった命が、悪夢となる事がないように。
 
 供物はそこら辺から手折ってきた花が一献、ただそれだけ。
 ……その花は、彼が人間だった頃の食卓の中心を慎ましやかに彩っていたのを、今でも覚えている。
 ここから徒歩で数時間もない生家は、もうなくなってしまっただろうか?

15 名前:エンハウンス ◆SqaveNgerQ 投稿日:02/10/22 11:22
>14続き
 
(――――下らん)
 
 ゆっくりと立ち上がり、墓碑に背を向けて歩き出す。
 チープな感傷に浸る時間はもう終わった。
 これからは、また復讐の日々が幕を開ける――否、幕はとっくに開きっぱなしだ。
 少しだけ、ほんの少しだけ舞台袖に引っ込んでいただけにすぎない。
 またあの舞台に戻ろう、そして吸血鬼狩りという即興劇をいつまでもいつまでも演じ続けよう。
 
 ――戻るべき舞台、復讐騎の目の前にはもう一人の主役がいた。
 
「……主役というのは、一人だから主役と言う」
 
 ならば、もう一人は邪魔だ。
 足は止まらず、まっすぐに男へと歩を進める。
 隻眼の朱い瞳が、銀髪に朱いスーツの男をじっと見据えながら。

16 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE 投稿日:02/10/22 11:26
ダンテvsエンハウンス
>14-15

 空が赤い。
 水面の彼方に沈む紅蓮の空と、黒く淀みだす山端の陰。温む色の流雲が不吉な紫に翳り、
彼方で海鳥がきいきいと鳴く。夕日に橙色にきらめく波間は、まるで火の海。
 青葉が、ざわめいている。

 立ち上がる。魔除けのアクセサリーがしゃらんと音をたてた。
 男はこっちに近寄ってくる。オレも近寄っていく。しばし白亜の石畳を踏む音ばかりが響く。
呼気すら聞こえぬ静寂を、葉が擦れる音と靴音ばかりが揺らめく。
 かつん。
 擦れ違う直前、

「あんたも、墓参りか」

 少し、声が掠れた。魔除けが鳴る。
 擦れ違う。背中越しに離れていく気配。
 剣圏より消える――


17 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE 投稿日:02/10/22 11:27
>16

「化物に死者を悼む権利があるかよ」

 瞬間、振り向きざまに大剣を抜き放ち、男に振り下ろす。同時跳ね上がった男の剣と唸りを
あげながら激突し、派手に火花を散らす。

 ああ、本当に最高だ。ここは。
 この臭い。血と、腐肉と、化物の臭い。この男からぷんぷん漂ってきやがる。昼間っから外を
歩いてんじゃないぜ、化物。
 最高だ。はっきり言って最悪に胸糞悪いが、飛び抜けて最高にハイだ。ああ――見ててくれよ、
母さん、婆さん、チビ姫。ここに化物がいる。みんなを殺した化物の仲間が――!
 切って、刻んで、燃やして、灰に。
 馬鹿な奴。最高の道化だ。
 三人の墓前に捧ぐよ。こいつの死を。そうすれば、少しは憎しみも和らぐだろう?

 そう、故人を悼むトニー・レッドグレイブはもういない。
 ここにいるのはダンテ――悪魔狩人のダンテ。


18 名前:エンハウンス ◆SqaveNgerQ 投稿日:02/10/22 11:27
>16>17 エンハウンスVSダンテ
 
「俺が悼むのは、義務だ」
 
 振り下ろされた銀色の剣閃と、漆黒に沈んだ迎え撃つ剣閃が激突し、火花を散らし、弾けて離れる。
 足で地面をこすりながら後退し、停止。
 唇を一舐めし、そのまま魔剣を青眼に構えて突進、同じく向かってきていた男と切り結ぶ。
 金属音、小手返し、金属音、剣を引いて斬り上げ、金属音斬撃金属音横薙ぎに振るう金属音金属音――。
 光と闇が閃き、火花と金属音を無数に量産し続ける。
 
 永劫とも思える剣戟に、しかし終わりを告げたのはエンハウンスの足だった。
 休むことなく動き続ける腕と刃、そのほんの一刹那をくぐり抜けるかのように。
 足がまっすぐに男に向けて繰り出される。
 蹴りの反動で身体を回転させ、後ろ手に遠心力を乗せた一撃を放った。
 剣にまとわりつく漆黒と瞳の朱が、尾を引いて残像を残す。
 
 ここにいるのは一匹の血を吸う鬼を殺す血を吸う鬼。
 エンハウンス――復讐騎。
 悼む事など、既に忘れたただの修羅。
 
 立ち塞がるのなら、殲滅するのみ。

19 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE 投稿日:02/10/22 11:33
ダンテvsエンハウンス
>18

 眼の痛む火花の黄は、まだ消えない。
 オレの体をわずかに蹴り崩し、奴が繰り出してくる横殴りの断面。空気どころか空間すら
真っ二つにしているように見える。まともに受けたら力負けする。
 剣を石畳に突き刺す。剣の腹で斬撃を受け止める。
 一際でかい炎が燃えた。頬が焼けた気がする。衝撃を押しとどめるのも困難を極めた。
 ふっ、と呼気を呑むと、渾身の攻撃が生んだ間隙を突く。振り子のように振れる双腕が、
腹、胸、顔に嵐のような打撃を叩き込んでいく。折に刺も掌も交え、クレバーにダメージを
狙っている――と見せて、

「ハ! 義務で悼まれちゃ、墓の中の魂も泣くぜ」

 鼻骨を砕く拳は受け止められたが、それも狙いどおり。視界が埋まった一瞬を捉えたハイ
キックが、奴の胸を蹴り飛ばす。
 そう、全てはこの一瞬のために。
 両手がコートの内側に走る。二挺のカスタム拳銃を引っ掛けると、抜き放ちながら指先で
舞わす。エボニー&アイボリー。45口径の芸術家の遺作。ダンテの為だけに作り上げられ
た銃。
 身体の前で、両腕を交差させる。双つの銃口が男を睨む。
 婆さん、見ててくれよ。あんたの銃が、あんたの嘆きを吐く勇姿を。
 黒と白の銃身が、爆発するように火を噴いた。


20 名前:エンハウンス ◆SqaveNgerQ 投稿日:02/10/22 11:34
>19 エンハウンスVSダンテ
 
 蹴りで崩された体勢、じっと睨み付ける銃口の双眸――。
 二挺の拳銃が、じっと復讐騎をポイントしている。
 この距離、このタイミング、かわせない。
 ……否、ならばかわさないまでだ。
 
 トリガー、トリガー、銃声を聞く前にエンハウンスは前へ。
 二発の銃弾を視認しながら、身体はなおも前へ出る。
 秒刻みで、妙にゆっくりと迫ってくる銃弾の一発が左肩を抉る。
 もう一発の銃弾は、右頭頂部を削るように持っていった。
 次瞬、二つの朱い華が咲き、辺りの空気を朱く染める。
 
 だが、エンハウンスは止まらない、血しぶきを身に纏いながら、前へ前へ。
 男まで後数歩の距離、気がつけば魔剣は左手、右手人差し指に一挺の古式拳銃がくるくると回っている。
 神殺しの銃、ブラックバレル。
 相手が逸脱していればしているほど破壊力を上げる概念武装。
 だが、ただの人間とて45口径クラスの銃弾を喰らって無事な道理はない。
 
 後二歩の距離、ブラックバレルが回転をやめ、グリップが掌に収まる。
 右腕が跳ね上がり、それに従って銃口が首をもたげ――。
 
 トリガー、トリガー。
 二つの金属の牙が獲物へと向かう。
 
「だが、それが俺だ」
 
 罪も罰も、全てをこの身に背負った復讐騎/復讐鬼。

21 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE 投稿日:02/10/22 11:36
ダンテvsエンハウンス
>19

 ひとつ、高く口笛を鳴らす。その高音を叩き潰す咆哮が、まっすぐこっちへ――
風情のひとつも解せよ。
 そう慌てなくたって、綺麗に微塵に殺してやるさ。
 最初の弾丸は眼狙い。これでびびったところを仕留めるつもりだったんだろうな
――胸狙いの二発目で。残念。そっちも見えてる。石畳に突き刺した剣を抜くと、
柄の頭で弾頭を軽く一撫で。ずれた軌道はもうオレとは重ならない。銀髪を数条
切り裂き、こめかみをうっすら掠めて、

 ――ぐらりと、傾いだ。

 意識が根こそぎ強奪される。脳味噌が丸ごと刳り貫かれる。全身の皮膚が裏表
逆さに捲られる。肺腑が爆発する。内臓が熱で溶ける。腸が蚯蚓になって暴れの
たくっている……
 苦悶ばかり無限に続く。
 遠くでギン、と鋭い音。
 次いで手に痺れる衝撃に、ようやく正気の手綱を掴む。弾丸の二発目は当たっ
ていない――何、なんてことはない。崩れかけた体を支えるために剣を突き立て
たら、たまたま弾が防げた。つまりラッキーだ。二度はない。
 猛烈な吐き気を、死ぬ気で飲み下す。胃液が喉を焼いている。無様な姿だけは
晒せない。彼女達の前だ。
 今の幻覚はなんだ? 45口径が掠めた衝撃にしちゃ、ちょっとばかりハード過ぎ
る。弾丸か、銃身か――いずれかに仕掛けがあると見たほうがいい。
 掠めただけでこうなら、直撃すれば――


23 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE 投稿日:02/10/22 11:38
>21

「……はは、そうこなくっちゃな」

 ダメージは悟らせない。笑って嘯く。クールにいこうぜ。
 地を蹴って跳ぶと、十字墓を足場とし、さらに跳躍。墓碑上を舞い飛びながら、
銃弾を雨霰と浴びせ掛ける。奴の足が止まった瞬間、大剣を構え。腕を弓なりに
撓らせると、心臓を貫く角度で投擲した。


24 名前:エンハウンス ◆SqaveNgerQ 投稿日:02/10/22 11:40
>21>23 エンハウンスVSダンテ
 
 聖葬砲典の銃弾が、予想外のダメージを男に刻む。
 その様を見て、気付いた。
 この男もまた、自分と同じ出来損ないであることに。
 人間にも、バケモノにもなりきれない半端者であることに。
 
「……同じ穴の狢がずいぶん偉そうにほざくな」
 
 強がっている男を見て、追撃に入ろうとした瞬間――――。
 地を蹴り、墓石を蹴って跳躍。
 目でその動きに追いついた瞬間……銃弾の雨が降り注いだ。
 咄嗟に魔剣を立てて、刃で銃弾を防ぐ体勢を取る。
 いくつもの銃弾が刃を叩く金属音を尻目に、数発が防御をくぐり抜けてきた。
 腕や脇腹に突き刺さり、肉を抉るそれに、しかしエンハウンスは頓着しない。
 受けるに任せ、強い光を目に宿したまま、じっと男の動きを剣の後ろから見据える。
 
 空中の男が、大きく体を反らせ……まっすぐに剣を投げつけてきた。
 一直線に心臓を目指し、魔剣の防御すら弾き飛ばさんとする勢いで。
 沈みゆく橙色の太陽を照り返し、同じ光を閃かせながら――――。
 
 それを見て取ったエンハウンスがアヴェンジャーを構え直し、大剣が辿る軌道の終着点に立つ。
 隻眼が切っ先をじっと見つめ、両の腕が力を蓄えていく。
 空を切って迫る刃が、いよいよ復讐騎を貫かんとする刹那――――。
 しなる腕が、魔剣を神速で送り出した。
 切っ先を正確に撃ち、大剣にかかっていた運動エネルギーが消え、逆転。
 大剣は空中を回転し、茜色の光を放ちながら持ち主の元へと帰っていく。
 
 その軌道を見据えながら軽く地面を蹴り……宙に浮いた身体を更に墓石を蹴る事で射出。
 大剣に追いすがるように飛びながら、魔剣を大上段に構えて男へと迫る――――!

25 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE 投稿日:02/10/22 11:42
ダンテvsエンハウンス
>24

「オレが? おまえと? 同じ?」

 そうかい、と口の中で続ける。
 夕日を弾いてVTOLのテールライトみたいな極光を掴み取れば、手に慣れて指の形に抉れた
柄。親父譲りの大剣の姿がそこにある。
 柄の髑髏の意匠は何のためか。決まってる。夜に巣食うこいつらに死をくれてやるこの剣に、
これ以上相応しい装飾はない。

 黒鴉のように腐臭を撒きながら飛び掛る男は上段。
 なら、こっちは払い上げてやる。
 逆手から放った氷刃が、叩きつけられる漆黒の刀身と激突し、刃を軋ませあう。刹那の均衡が
銀光を残してあっさり崩れ、互いの剣が横に吹っ飛ぶ。一メートルほどしかない男との狭間に、
剣風が所狭しと吹き荒れる。

「巫山戯ろよ、バケモノ」

 順手に持ち替え、そのまま薙ぐ斬撃。足場のないことなど、こいつを殺すのをやめる理由には
ならない。返す切っ先が逆袈裟、刺突に払いに振り下ろし。目先を変えて跳ね上がる蹴りが腹
を狙い、さらに右腕で驟雨のごとくジャブ、ジャブジャブジャブジャブジャブジャブ。撓めた腰が
放つ閃光の突きが薙ぎ払いに変化し、その遠心力を利用した力任せの一撃。剣を持ち直すと、
何事もなく剣戟は続く。最初の一合目から一秒と立っていない。激しい火花が理性をもぎとって
いく。ただただ剣を振る修羅となる。タテ横ナナメ、タテ縦突きヨコタテナナメヨコ横ツキ斜め……


26 名前:エンハウンス ◆SqaveNgerQ 投稿日:02/10/22 11:44
>25 エンハウンスVSダンテ
 
「バケモノにバケモノと言われても堪えんな」
 
 飛び散る火花、茜を切り裂く漆黒の刃、茜に映える大剣――――。
 攻守ところがまばたきする前に移り変わり、まばたきが終われば再び逆転している。
 空中で右腕が無心に剣を振るいながら、左腕は更なる突きを繰り出し、男のジャブを払い落とす。
 足がボディへ牽制の蹴りを放ち、脛で男の蹴りを受け止める。
 魔剣が振り下ろされ、薙ぎ、突き、ねじり込む。
 そのことごとくが、男の大剣と相打って火花を散らすに止まる。
 軌道を変えて男の顎を狙うアッパーも、中段から上段に変化する蹴りも男の身体には届かない。
 
 永劫とも思える数秒を空中で交錯する二人の剣が、一際大きい音と共に弾けた。
 その勢いに押されて袂を分かつ二人。
 まるで、今まで忘れていた落下を思い出したかのように石畳に着地。
 後ろへ滑っていく身体を、魔剣を石畳に突き刺して急制動。
 かがみ込んだ姿勢のまま、左手にはブラックバレル。
 まっすぐに少し離れた男へと銃口を向け、殺意を連打連打連打。
 鉄火が鉄火が鉄火が鉄火が鉄火が閃き、神殺しがうなりを上げて男へと迫る。

27 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE 投稿日:02/10/22 11:46
ダンテvsエンハウンス
>26

 ハ、今度は早撃ち勝負かい?
 どこまでも付き合ってやるさ。貴様が地獄に還るまでな。

 右手が大きくしなり、大剣を天高く放り投げる。引き抜いたエボニー&アイボリーを交差させ――
ふと、気づく。向こうは一挺、こっちは二挺。なるほど、アンフェアだ。
 右手の拳銃も軽く宙に跳ね上げ、
 銃火が眼を焼いた。
 切れ目のないブローバックが吐くマズルファイアが、横移動するオレの動きにともなって火線の
残滓を空に刻みつける。精密射撃を旨としてカスタマイズされたエボニーに、このオレの技量なら、
何百メートル離れたって百発百中。
 立ち込めた硝煙を貫き通す、鉛の嵐。

 がきん。二人、同時に弾切れ。
 急ぎ銃身を折り、弾丸を込める男。はいはい、ご苦労様。
 口にくわえたエボニーから弾倉を抜き取り、代えのマガジンを叩き込む。銃把をはじき、スライド
ストップを解除。初弾が装填される歯応え。
 今から構え直したら間に合わない? いいや。
 先に投げていたアイボリーが右手にすっぽり収まるのと、奴が銃身を戻すのが同時。
 最初の銃声も同時。

「そうかい。ならもっと言ってやるよ」

 吠え立てる銃声に負けじと声を張る。速射重視のアイボリーが放つ反動を力で押さえつけなら、
視線も殺意も逸らさず受け止め、突きかえす。
 ようやく空薬莢が石畳で踊る音。次いで弾頭が剥げた弾丸のハープが続く。
 互いの銃弾を銃弾で撃ち落し、撃ち落された結果だ。

「臭いんだよ、貴様。何人も殺して喰った化物の臭いだ。豚と同じで、反吐が出る」


28 名前:エンハウンス ◆SqaveNgerQ 投稿日:02/10/22 11:50
>27 エンハウンスVSダンテ
 
 銃弾が銃弾と相打つという常軌を逸した状況を、しかしエンハウンスは素直に受け止めた。
 要するに、このバケモノ二人に銃など無意味なのだ。
 鉄火も刃も、等しく相手を殺す手段であり、そこに差などありはしないという事。
 刃を打ち付け合う様に、鉄火を打ち付け合ったというだけ、ただそれだけだ。
 
「そう、俺は罪人、この手に数え切れないほどの命を手に掛け、この牙は数え切れないほど血を啜った
 数え切れないほどの吸血鬼をブチ殺し、何より拭いがたい血と罪がこの両手にはこびり付いている」
 
 咎を示すかのように両手を覆う、呪紋だらけの包帯。
 その下では、魔剣を持つことによる神経の壊死が、聖葬砲典を持つことによる腐敗が進行し続けている。
 その痛みすら心地よい、自らに罰を与えてくれているようで。
 だが、こんなモノでは足りない、罪に罰が足りなさすぎる。
 
「だからこそ、俺は生きて罪を背負い、罰を受ける、死など罰として軽すぎる」
 
 銃身を回転させて収納しつつ、地面に突き刺してある剣を引き抜き二、三度回転させる。
 魔剣が手に馴染んでいくのを感じながら、男へとまっすぐに走行開始。
 だが……ただ斬り合うだけでは埒が開かないのは既に証明されている。
 ならば、一つ埒を開けるために仕掛けるとしよう。

29 名前:エンハウンス ◆SqaveNgerQ 投稿日:02/10/22 11:51
>28続き 

 走りながら、漆黒の魔剣を大上段に振り上げる。
 その先にいる男を視線で射抜かんとばかりに凶った瞳で捉え……魔剣を振り下ろした。
 同時に、魔剣にまとわりついていた漆黒を解放。
 
 解放された闇は、黒い顎を地面から虚空に開きながら、まっすぐに男へと向かう。
 その密度は、容易に向こう側を見渡せないほどに濃い。
 しかし、衝撃を伴うそれも囮でしかない。
 それを盾とし、左手のブラックバレルの引き金を引く――――それすらも囮。
 本命の一撃は、闇をブラインドとして化鳥と化した自分自身。
 
 上空から、魔剣の一撃を男に叩き込まんと復讐騎が舞い降りる。

30 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE 投稿日:02/10/22 11:53
ダンテvsエンハウンス
>28-29

 一拍の間。

 戦闘には往々にしてこうした空白ができる。そこには何もない。澄んだ時間があるだけ。全身を
覆う気迫は抜け、殺気は薄れ、死の顎は閉じられる。
 それを踏み場として繰り出されるは、まさしく必殺の一撃。
 勝敗をわける一撃だ。
 くく――上等。来いよ。

「殺して、殺して――それでどうするつもりだ?」

 手招きして、男を迎える。
 黒剣から放たれた、暗く質量を感じさせる闇を、正面からまともに受け止める。切れた口内も、
裂けた全身も省みない。
 高く投げた大剣が空を切り、腕を掠めて落下していく。それを敢えて掴み取らず、暗黒を貫いて
来たる銃弾を見据え、致命傷を避けるよう動く。右胸の肉を浅く抉った弾丸に、少なからぬ衝撃と
天地が逆転する吐き気を覚えるものの――足を踏ん張り、歯を割れるほど噛み締めて、全ての
精神力をもって耐え切る。

「化物を殺し終えたら、今度は人間の血を吸うんだろ? ――逝け。貴様は必要ない」

 剣が地面を叩く刹那、爪先で柄を蹴り上げる。激しく回転しながら跳ね上がる大剣は、主をわき
まえた犬のようにオレの手の中に帰ってくる。
 次瞬。
 魔剣を振りかざす、奴の姿が見えた。

 確かに、音を斬る手応えを感じた。肉の全てを切らせたのは、この一撃を確実に貴様にブチ込
むため。こいつを確実に殺すため。
 魔剣士スパーダの残せし無名の剣技は、オレ自身をプライマーと変え、バレルと変え、パウダ
ーと変え、大剣を超音速の弾丸に変え、必殺の軌跡を虚空に解き放った。

31 名前:エンハウンス ◆SqaveNgerQ 投稿日:02/10/22 11:58
>30 エンハウンスVSダンテ
 
「最後には全てを終わらせる、それだけだ」
 
 茜もそろそろ主張をやめ、薄闇が辺り支配し始めた頃。
 瞬雷のごとく振り下ろされる斬閃、昇竜のごとく振り上げられる斬閃。
 夜を切り裂くかの様な二つの銀光が交わることのない軌跡を描く。
 
 昇竜がエンハウンスへと吸い込まれ、瞬雷が男へと吸い込まれていく。
 何事もなかったかのように銀色の光は闇と同化し、静寂が夜の墓地を支配する。
 音もなく、石畳の通路に片膝と片手を付いて着地したエンハウンス。
 高々と大剣を掲げ持つ男。
 数秒、まるで静止画のように動かない二人。
 何もかもが動きを止めた世界の中、潮鳴りの音だけが、確かに時間が動いている事を教えてくれた。
 
 永遠と錯覚するほどの静止の後……朱を散らしたのはエンハウンスだった。
 胸を袈裟懸けに走る朱い筋、こらえきれなかったかのように口腔から弾ける鮮血。
 深々と切り裂かれた胸腔の内部は血で溢れている。
 半吸血鬼であるエンハウンスにとってはそれですら致命傷ではないが……。
 それはその一撃が致命傷ではないという事だけ。
 次の致命傷の呼び水になるのであれば、やはりそれは致命傷なのだ。
 今は天空を指向している大剣が、地を指向すれば――――。

32 名前:エンハウンス ◆SqaveNgerQ 投稿日:02/10/22 11:58
>31続き
 
 背筋を凍結させる死の予感に、復讐騎は舞う。
 地面を転がり、片腕で跳躍して男から距離を取り、地を這う様な姿勢で次の一撃を放つ為の力を蓄える。
 失われていく血の朱に、瞳の朱が反比例しない。
 闇夜を貫く朱い光が――――。
 
 一筋の奔流となって駆け抜けていく。
 クラウチングスタートの体勢で溜め込まれた力が爆発する。
 蹴られた石畳が砕け、切り裂かれる空気が甲高い音を立てて後ろへと流れていく。
 地面を擦るか擦らないかのところを疾る刃が、男へと振り上げられる。
 
 エンハウンスの通った後には、血がその足跡を虚空に刻んでいる。
 当たろうと当たるまいと、コレが復讐騎に放てる最高で最後の一撃。

33 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE 投稿日:02/10/22 12:00
ダンテvsエンハウンス
>31-32

 てめえがガッツあるのはわかったよ――だから何だ。化物が化物であることに、何の変わりも
あるものか。喉奥からこみあげる血を飲み下す。全身から滴る血が、真紅のコートを内から濡ら
している。
 先の一撃を加えた代償は、決して安いもんじゃなかった、ってこと。いまさら実感するが、後悔
などはない。あろうはずがない。化物を屠るために、何を支払っても省みることなど、無い。
 朱を吐きながら、なお立ち上がる男に振り返り、鈍く笑う。来いよ。

 このショウダウンは終わりはしない。どちらかが完全に息の根を止めるまで。

「なら、オレが終わらせてやる」

 僅かに地を掠り、火花で線を引く切っ先。その稲妻さながらの一撃は、躱す暇も、術もない。
一歩踏み出す。胸に喰らいついた大剣は、次の瞬間には背からその先端を生やしていた。
 お見事、お見事。
 喝采でもしてやりたい気分だった。代わりに肺からぶちまけられる血反吐をたっぷりとかけてや
る。好きだろ? 血。
 今度は自分の血でも飲めよ。
 剣を、腰の捻りのみで突き入れる。この距離、タイミング。避けられやしないさ。肋骨を力任せに
折り砕き、白銀の金属が肉を裂いて血を滴らせ、刃の鋭さが柔な臓腑に突き刺さる。
 男が悶えるたび、オレの中の剣も揺れ動く。そのたびに走る、激痛と灼熱と不快が混じった、脳
が壊れそうな死の表現。ああ、こいつはキツイ。
 この何倍もの苦しみの中で、死ねよ。化物。

「――ジャックポット」

 腕を返す。抉る手応えの中に、心臓の重みを感じ、より一層力を込めた。


34 名前:エンハウンス ◆SqaveNgerQ 投稿日:02/10/22 12:03
>33 エンハウンスVSダンテ
 
 抉る刃、抉り込まれる刃。
 肉と骨を突き破り突き破られ、血を流す、内臓に多大なダメージを受けて吐血する。
 互いの吐血が、互いの顔に朱い化粧を施していた。
 
 男の切っ先が、エンハウンスの心臓を捉えた事を知覚する。
 トドメとばかりに捻り込まれる白刃。
 
(……させん)
 
 選択は、前進。
 角度を変えようとしていた刃は心筋の表面を滑って背中へと突き抜けていった。
 新たに呼び起こされる痛みに、しかしエンハウンスは頓着しない、復讐騎は揺るがない。
 あるかなきかの距離を更に詰め、ゼロへ。
 突き上げてくる衝動……失われた血が、エンハウンスの『吸血鬼』を呼び覚ます。
 口元から流している血が染め上げている首筋。
 そこを流れる頸動脈の在処が手に取る様に分かる、脈打つ音が教えてくれる。
 朱い呼気と共に姿を現す、吸血鬼が吸血鬼たる武器――――牙。
 
 小さく閃く、白い二対の刃が、男の首筋へと吸い込まれ、皮膚を食い破る音と共に打ち込まれた。

35 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE 投稿日:02/10/22 12:07
ダンテvsエンハウンス
>34

「こ、いつッ……か、は」

 血を、吸ってやがる。こいつ、やるに事欠いて、このオレの、血を。

「……はっ、ははっ、アア、ハハハハハハ!」

 笑った。
 嬉しくて笑った。くく、そうかい。やってくれるな。オレを殺すために、手段は選ばないか。自分が持
つ全ての武器を使い切るか。ああ、そいつぁ最高。いや、光栄とでも言おうか? 今オレは、てめえ
の全てを知ったわけだよ。く、くく。嬉しくて笑った。
 こいつは、自分の剣士の技量だけでは足りぬと見て、吸血鬼としての本性を曝け出して向かって
来た。
 オレは、まだだ。オレの中の悪魔は、まだオレが制御している。
 勝ったんだよ、オレは。
 これが、貴様とオレとの、決定的な相違点だ。

 解るか、化物?
 解らないだろう。だからてめえは化物なのさ、同類。
 そして――

 両手に踊る、エボニー&アイボリー。
 むしろ抱くように、こめかみと下顎の付け根に照準。
 優しく、ゆっくり、口づけるように――

「サヨウナラ、化物」

 トリガー。


36 名前:エンハウンス ◆SqaveNgerQ 投稿日:02/10/22 12:16
>35 エンハウンスVSダンテ
 
 響く二つの銃声、十字に頭の中を貫く二発の銃弾。
 真上と真横に血と脳漿を撒き散らす。
 人間なら明らかに致命傷、半吸血鬼の生命力でも半端なダメージではない。
 だが、それでも、そこまで傷つきながらも。
 
 エンハウンスの牙は、男の首筋に突き立っていた。
 目をしっかと見開いて、殺意を牙に乗せる。
 瀕死のはずの身体は、小揺るぎもせずに男を飲み干し続けていた。
 
「くた……ばれ」
 
 ほんの僅か、あるかなきかの言葉を口から紡ぎ出した。
 手に握られた魔剣の刃は、今なお男の身体を貫いている。
 そして、剣が放つ瘴気は夜を塗り潰すほどに濃い。
 その闇色が、エンハウンスの殺意に従って――――。
 
 男の体内で弾けた。
 埋め込まれた刃から、復讐騎の痛みの象徴が荒れ狂って男を貪り尽くす。
 殺意の具現を確認すると同時に、ずるりと男の身体を滑り落ちる復讐騎。
 受け身も取らずに地面に倒れ込み、それでも目を見開きながら、エンハウンスは気を失っていた。

37 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE 投稿日:02/10/22 12:19
ダンテvsエンハウンス
>36

 かなたで、うた。


 歌――か。

 目蓋を持ち上げる。うつ伏せで倒れていた。草の端が頬を撫でる、冷たい肌触りと、唇に張り付く
砂利混じりの血の味が、辛うじてな生を認識させる。
 傷――考えたくもない。中から破壊されたんだ。胸には風穴が開いてるに決まってるし、中身は
スプラッタ映画顔負けになってるに決まってる。そんなのはオレじゃない。だから見なくたっていい。
そんなオレを見たら、きっと彼女等は哀しむ。

 今の……歌、だよな。
 何だったか。ひどく懐かしい気はするんだが、思い出せない。教会のミサで聞いた賛美歌だった
か、それとも葬式で聞いた鎮魂歌か。ハハ、良かったな化物。堕ちたてめえにも、こうやって祈りは
届く。まったく、神様ってのは慈悲深い。

 夕空を赤く染めた陽はとうに落ちて、今は黒い夜があたりを包む。一寸先すら見通せない闇に、
やはり聞こえる歌が、光明のように響く。
 何を思うでなく、その方向へと進みだしていた。
 歩みは鈍い。そもそも歩くことすら出来ていない。立つことすら出来ないほど侭ならない身体から、
なけなしの力をかき集め、芋虫のように這って進む。
 まったく、なんて無様な。――けど、何故だか、行かずにはいられない。


38 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE 投稿日:02/10/22 12:20
>37

 差し伸ばす手の先に、触れる薔薇の花弁。
 思わずはっと振り仰いだ。そこは――此処、か。白木を組んだ十字の墓碑。敷き詰められた白薔
薇の絨毯。あの水平の上に浮く月の光に、ほの白く、そこだけ別世界のように綺麗な、三人の寝所。

 思い出した。
 これは――子守唄、だ。

 は、はは。笑いが血泡混じりに毀れる。
 ずりずりと這って、なんとか十字に寄りかかる。通るそばから、白い薔薇が血染めに赤く染まる。
――まったく、高かったってのに。自分で汚してりゃ世話ないよな。

「……見てるか? みんな」

 ひとりひとり――オレと関わって、そして死んでしまった人を思い浮かべる。
 ひとり思うたびに、薔薇がひとつ、赤く染まる。

「勝った。勝ったぜ……オレは。これからも勝ち続けるさ。みんなの仇、全部とるまでな」

 だから、今だけ。せめて今だけは。
 みんなの優しさに、甘えさせてもらえるか?
 このなつかしい、子守唄の中で、このやすらかな、ゆりかごみたいな寝所で。
 少しだけ眠らせてくれ。ああ、もうどうしようもなく、瞼が重いんだよ。


39 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE 投稿日:02/10/22 12:21
>38



 空を仰ぐ。
 一面を、いっそ蒼く覆う夜の彼方に――

「……一番星、見っけ」

 ――眠れよ眠れ、我が子等よ……




 闇は深く、静かに、そして優しく、この夜を包んでいく……





40 名前:エンハウンス ◆SqaveNgerQ 投稿日:02/10/22 12:22
>37>38>39 エンハウンスVSダンテ エピローグ
 
 夜半過ぎ、天空に眩い月が鎮座し、星々が煌めく綺麗な夜。
 月が見下ろす中に二人の血塊が転がっていた。
 もともとが人型をしているなどと、そのざまを見て誰が信じられただろうか?
 それほどまでに、その二人は傷つきすぎていた、死んでいるとしか見えなかった。
 
 ピクリ、とエンハウンスの指が跳ねた。
 頭部、脳をを十字に撃ち抜かれながらこの復讐騎は死ななかった、死ねなかった。
 その身の半分は吸血鬼であるが故に、脳への損傷が致命傷になる事はない。
 そして彼は死ねなかった自分に安堵し、死ねなかった自分を責め苛む。
 まだ罪の精算を行えるから、まだ罰が自分に下されなかったから。
 
 ならば、罪の精算を続けよう。
 
 血の足りない身体を引きずって、戦場を後にする。
 ズダボロになって転がっている男には頓着しない。
 既にあの男から血は頂いた、そして不味かった、それに輪を掛けて死人の血は不味い。
 
 否、エンハウンスは気付いていた、奴が死んでいない、アレだけ壊されてなお命が消えていない事に。
 だが、それでもエンハウンスは振り返らない。
 男への興味は毛ほども残ってはいなかった。
 嘘だ、表面では確かにそう思っているが、自覚できない奥深くでエンハウンスには一つの確信があった。
 アレと自分は同じなのだという、いわば宿命を背負った存在であることを――――。

41 名前:エンハウンス ◆SqaveNgerQ 投稿日:02/10/22 12:23
>40続き
 
 五年後、同じ共同墓地にて――――――――。
 
 花は、やはりそこらで手折った名前も知らないモノだった。
 墓前で思い返す家族との情景は、一年前より確実に色褪せている。
 罪を一つ塵に還す度に、記憶の一部も塵に還っていくかのような、そんな錯覚すら抱く。
 でも、だからこそ本当に記憶が塵と化してしまわないように、彼は一年に一度この墓に花を供えるのだ。
 褪せた記憶の輪郭を、少しでも鮮やかに取り戻すために。
 
 手を合わせる事のない小さな祈りを終えて、復讐騎は立ち上がった。
 振り向いた視線の先には、薄笑みすら浮かべてこちらを見ているあの男。
 合わせ鏡を覗き込むかの様に、エンハウンスの表情にも笑みが刻まれていた。
 
 もう、何度この顔を見てきただろうか。
 毎年、家族の命日に墓参りに来る二人は、毎年申し合わせたかの様に刃を撃ち合わせ、銃火を交える。
 そして、互いに瀕死になりながらも決してどちらも死にはしないのだ。
 そんな、呆れた殺し合いが、毎年毎年同じ日にこの共同墓地で飽きることなく繰り返されていた。
 
「今度こそ、俺に罰を下してくれるのか?」
 
 顔には相変わらず笑みを浮かべながら、愉しげにそう問い掛けた。
 右手には魔剣アヴェンジャー、左手には聖葬砲典ブラックバレル。
 魔剣の切っ先をまっすぐに男へと向け、視線はその切っ先すらかすむほどに鋭く男を射すくめる。
 酷く間延びした数秒の空白の果てに、エンハウンスは地を蹴って男へと肉薄していった。
 
 二つの牙を手に、復讐騎はまだ罪と罰の間を踊り続ける。
 
Fin?

42 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE 投稿日:02/10/22 12:28
ダンテvsエンハウンス
>40-41

 頬皮を歪めながら、MDの音楽を聴く。いつ手に入れたかも知らない、どこかすっ呆けた歌の響き。
背に佩いた剣を引き抜いた。コートを軽く翻す。魔除けのアクセサリがじゃらんと鳴る。


 ――嗚呼、空はこんなに蒼いのに
 ――風はこんなにも暖かいのに


 初夏の涼やかな風と、一年ぶりの赤い眼光。殺意に濡れた瞳で、鋭く、親しみ深く睨みあう。
 今年もまた、墓前に白薔薇と血を添える季節。

 決着のときだ。

「Yah,――――――Show down !!」

 イヤホンを抜いた。
 一際大きい潮風が、丘の大樹の青葉を轟かせた。

 一合目が激突し、派手な火花と銀光を散らす。
 クク――さあいこうぜ、兄弟。



                                 〜Dante vs Enhance never end...〜